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医療過誤・医療事故等が未然に防がれること、願っています。知っておくべき最低限の法律の知識。

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 医療裁判例をみるにつけ、医療過誤・医療事故等が未然に防がれること、万が一起きた場合の適切な対応がなされることで、医療と患者の間に起こる不幸な争いが減ることを心から願っています。

 医師と患者の信頼関係構築に向け、最低限、医師と患者双方が知っておくべき法的な事柄を以下に記載します。


第1、医療関連の重要判例

 以下は、医療事故関連の重要判例です。
 判決文全文は、最高裁ホームページから閲覧可能です。

〇最高裁平成14.11.8 投薬に際しての注意義務
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=62465&hanreiKbn=02 
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319130607692639.pdf 
  医薬品添付文書に過敏症状と皮膚粘膜眼症候群(スティーブンス・ジョンソン症候群)の副作用がある旨記載された薬剤等を継続的に投与されている患者に副作用と疑われる発しん等の過敏症状の発生が認められたことなど判示の事実関係の下においては,当時の医療上の知見において過敏症状が同症候群へ移行することを予測し得たものとすれば,医師は,同症候群の発症を予見し回避の措置を講ずべき義務を負っていたものであり,同症候群の症状自体が出現していなかったことなどから直ちに医師の過失を否定した原判決には,上記薬剤の投与についての医師の過失に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。

〇最高裁昭和60.3.26 転医の要件および時期の判断の過失
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=52673&hanreiKbn=02 
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121055938198.pdf 
 昭和五一年二月に在胎三四週体重一二〇〇グラムで出生した極小未熟児が急激に進行する未熟児網膜症により失明した場合において、当該病院には当時未熟児網膜症の治療方法として一般的に認められるに至つていた光凝固等の手術のための医療機械がなく、また、同児の眼底検査を担当した眼科医が、未熟児網膜症についての診断治療の経験に乏しく、生後三二日目にした一回目の検査とその一週間後にした二回目の検査により、眼底の状態に著しく高度の症状の進行を認めて異常を感じたにもかかわらず、直ちに同児に対し適切な他の専門医による診断治療を受けさせる措置をとらなかつたため、同児が適期に光凝固等の手術を受ける機会を逸し失明するに至つた等の判示の事実関係のあるときは、眼科医には右失明につき過失があるものというべきである。

〇最高裁平成7.5.30 未熟児である新生児の黄疸の説明
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=76105&hanreiKbn=02 
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319133921174305.pdf 
  医師が未熟児である新生児を黄だんの認められる状態で退院させ、右新生児が退院後黄だんにり患して脳性麻ひの後遺症が生じた場合につき、医師が、右新生児の血液型の判定を誤り、父母に対して、血液型不適合はなく黄だんが遷延しているのは未熟児だからであり心配はない旨の説明をし、退院時には、何か変わったことがあれば医師の診察を受けるようにとの一般的な注意を与えたのみで、残存していた黄だんについては特段の言及もしなかったなど判示の事実関係があるときは、医師の退院時における説明及び指導に過失がないとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法がある。

〇最高裁平成21.12.7 川崎協同病院事件上告審決定
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=38241&hanreiKbn=02 
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091209113834.pdf 
  気管支ぜん息の重積発作により入院しこん睡状態にあった患者から,気道確保のため挿入されていた気管内チューブを抜管した医師の行為は,患者の余命等を判断するために必要とされる脳波等の検査が実施されておらず,発症から2週間の時点でもあり,回復可能性や余命について的確な判断を下せる状況にはなく,また,回復をあきらめた家族からの要請に基づき行われたものの,その要請は上記のとおり病状等について適切な情報を伝えられた上でされたものではなかったなどの本件事情の下では,法律上許容される治療中止には当たらない。

〇最高裁平成12.2.29 信仰に基づく輸血拒否 東大医科研事件 
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=52218&hanreiKbn=02 
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319120604218580.pdf 
 医師が、患者が宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒否するとの固い意思を有し、輸血を伴わないで肝臓のしゅようを摘出する手術を受けることができるものと期待して入院したことを知っており、右手術の際に輸血を必要とする事態が生ずる可能性があることを認識したにもかかわらず、ほかに救命手段がない事態に至った場合には輸血するとの方針を採っていることを説明しないで右手術を施行し、患者に輸血をしたなど判示の事実関係の下においては、右医師は、患者が右手術を受けるか否かについて意思決定をする権利を奪われたことによって被った精神的苦痛を慰謝すべく不法行為に基づく損害賠償責任を負う。


〇最高裁平成17.12.8 拘置所脳梗塞事件
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=62624&hanreiKbn=02 
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319130721445192.pdf 
 拘置所に勾留中の者が脳こうそくを発症し重大な後遺症が残った場合について,第1回のCT撮影が行われて脳こうそくと判断された時点では血栓溶解療法の適応がなかったこと,それより前の時点では適応があった可能性があるが,その適応があった間に,同人を外部の医療機関に転送して,血栓溶解療法を開始することが可能であったとは認め難いこと,拘置所において,同人の症状に対応した治療が行われており,そのほかに,同人を速やかに外部の医療機関に転送したとしても,その後遺症の程度が軽減されたというべき事情は認められないことなど判示の事情の下においては,同人が,速やかに外部の医療機関へ転送され,転送先の医療機関において医療行為を受けていたならば,重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されたとはいえず,拘置所の職員である医師の転送義務違反を理由とする国家賠償責任は認められない。
(補足意見及び反対意見がある。)


〇最高裁判所平成11.2.25 肝細胞がん事件
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=52587&hanreiKbn=02
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319120954008273.pdf
一 医師が注意義務に従って行うべき診療行為を行わなかった不作為と患者の死亡との間の因果関係は、医師が右診療行為を行っていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度のがい然性が証明されれば肯定され、患者が右診療行為を受けていたならば生存し得たであろう期間を認定するのが困難であることをもって、直ちには否定されない。
二 肝硬変の患者が後に発生した肝細胞がんにより死亡した場合において、医師が、右患者につき当時の医療水準に応じた注意義務に従って肝細胞がんを早期に発見すべく適切な検査を行っていたならば、遅くとも死亡の約六箇月前の時点で外科的切除術の実施も可能な程度の大きさの肝細胞がんを発見し得たと見られ、右治療法が実施されていたならば長期にわたる延命につながる可能性が高く、他の治療法が実施されていたとしてもやはり延命は可能であったと見られるとしながら、仮に適切な診療行為が行われていたとしてもどの程度の延命が期待できたかは確認できないとして、医師の検査に関する注意義務違反と患者の死亡との間の因果関係を否定した原審の判断には、違法がある。


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第2、医事法関連で最も重要な手続き=証拠保全

 医事法の講義を受講し、最も重要な手続きと思ったことは、証拠保全手続きです。

 もし、医療関連トラブルが生じた場合、迅速に証拠保全手続きをする必要があります。

 診療記録と照らし合わせ、適切な診療がなされたかを調査することから始まるからです。

 迅速なとは、一刻を争うことをいいます。

 なぜならば、不十分な記載箇所に書き足しやカルテ改ざんがなされたり、保存期間があり、長くて5年で処分される場合があるためです。

 (相談して、問題点ありとされた場合、即、証拠保全に動いてくださる弁護士さんは、信頼できるひとつの指標になるのではないでしょうか。)

 <証拠保全の手続きの流れ>

1)検証目録を作成します。

 ここで、絶対落としてはならないものは、手術などの場合の動画類です。
 事務局にないといわれても、医局に置かれていることもあります。

 検証目録の最後に、包括的な文言を付記し、落ちがないようにします。

*参考 医師法
第二十四条  医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。
2  前項の診療録であつて、病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関するものは、その病院又は診療所の管理者において、その他の診療に関するものは、その医師において、五年間これを保存しなければならない。

2)証拠保全の申立書

3)提示命令
 民事訴訟法234条、223条、224条、

 もし、提示命令に従わない場合、病院側に不利な方向で、話が進められます。

 →当事者が文書提出命令に従わないときは、裁判所は、当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができる。(民事訴訟法224条)

(証拠保全)
第二百三十四条  裁判所は、あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情があると認めるときは、申立てにより、この章の規定に従い、証拠調べをすることができる。

(文書提出命令等)
第二百二十三条  裁判所は、文書提出命令の申立てを理由があると認めるときは、決定で、文書の所持者に対し、その提出を命ずる。この場合において、文書に取り調べる必要がないと認める部分又は提出の義務があると認めることができない部分があるときは、その部分を除いて、提出を命ずることができる。
2  裁判所は、第三者に対して文書の提出を命じようとする場合には、その第三者を審尋しなければならない。
3  裁判所は、公務員の職務上の秘密に関する文書について第二百二十条第四号に掲げる場合であることを文書の提出義務の原因とする文書提出命令の申立てがあった場合には、その申立てに理由がないことが明らかなときを除き、当該文書が同号ロに掲げる文書に該当するかどうかについて、当該監督官庁(衆議院又は参議院の議員の職務上の秘密に関する文書についてはその院、内閣総理大臣その他の国務大臣の職務上の秘密に関する文書については内閣。以下この条において同じ。)の意見を聴かなければならない。この場合において、当該監督官庁は、当該文書が同号ロに掲げる文書に該当する旨の意見を述べるときは、その理由を示さなければならない。
4  前項の場合において、当該監督官庁が当該文書の提出により次に掲げるおそれがあることを理由として当該文書が第二百二十条第四号ロに掲げる文書に該当する旨の意見を述べたときは、裁判所は、その意見について相当の理由があると認めるに足りない場合に限り、文書の所持者に対し、その提出を命ずることができる。
一 国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ
二 犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれ
5  第三項前段の場合において、当該監督官庁は、当該文書の所持者以外の第三者の技術又は職業の秘密に関する事項に係る記載がされている文書について意見を述べようとするときは、第二百二十条第四号ロに掲げる文書に該当する旨の意見を述べようとするときを除き、あらかじめ、当該第三者の意見を聴くものとする。
6  裁判所は、文書提出命令の申立てに係る文書が第二百二十条第四号イからニまでに掲げる文書のいずれかに該当するかどうかの判断をするため必要があると認めるときは、文書の所持者にその提示をさせることができる。この場合においては、何人も、その提示された文書の開示を求めることができない。
7  文書提出命令の申立てについての決定に対しては、即時抗告をすることができる。

(当事者が文書提出命令に従わない場合等の効果)
第二百二十四条  当事者が文書提出命令に従わないときは、裁判所は、当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができる。
2  当事者が相手方の使用を妨げる目的で提出の義務がある文書を滅失させ、その他これを使用することができないようにしたときも、前項と同様とする。
3  前二項に規定する場合において、相手方が、当該文書の記載に関して具体的な主張をすること及び当該文書により証明すべき事実を他の証拠により証明することが著しく困難であるときは、裁判所は、その事実に関する相手方の主張を真実と認めることができる。

(第三者が文書提出命令に従わない場合の過料)
第二百二十五条  第三者が文書提出命令に従わないときは、裁判所は、決定で、二十万円以下の過料に処する。
2  前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。



4)検証不能と言われた場合、ないと言われた場合、ないはずがないわけであり、なぜ、ないのか確認します。

5)複数の医療機関にまたがる場合は、同時に証拠保全をします。

6)診療記録以外の証拠収集も忘れずに行います。

 看護記録、検査記録、レセプト、介護サービス記録など

 電子カルテの場合、その運用規約と、更新履歴。

 以上
 

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第3、医師と患者の診療契約は、準委任契約(科によっては、委任契約)

 医師と患者の診療契約は、判例・通説は、準委任契約と言われています。

 民法656条に規定。この節というのは、「委任」契約の規定をさします。
(準委任)
第六百五十六条  この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。

1)診療契約の本質 原則

 その契約の本質は、結果債務(=事務処理の完成、医療の場合、診断・治療の結果の治癒)ではなく、手段債務(その疾患の診断・治療のために必要な最善の医療を実施することを目的とすること)です。


2)診療契約の本質の例外

 美容整形、健康診断などは、請負契約性も認められる場合があります。



3)診療契約の成立について

 患者の「申し込み」と医療側の「承諾」で成立します。

 他の職業と最も異なるのは、医療側の「応召義務」です。

 原則、医師は、患者を拒めません。


 医師法19条1項。
第十九条  診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。


4)医療契約が成立するとその効果として、医療側、患者側にそれぞれ負担すべき義務が生じます。

〇医療側の負担すべき債務(最善の医療を提供する義務、手段債務)

 ?最善の医療を実施する義務

 ?問診義務

 ?転院、転送義務

 ?説明義務

 ?安全管理義務、院内感染対策義務

 ?死因説明・解明義務

 ?診療録記載・保管・開示義務

 ?情報管理義務

 ?証明文書交付義務



〇患者側が負担すべき義務

 ?診療報酬支払義務

 ?「診療協力義務」 原則として、もし協力なき場合、医師は診療契約の解除のほうにもっていくことができる。


5)医療契約の終了

 〇終了原因が民法上規定されています。

(委任の終了事由)
第六百五十三条  委任は、次に掲げる事由によって終了する。
一  委任者又は受任者の死亡
二  委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。
三  受任者が後見開始の審判を受けたこと。

 〇当事者からの解除

 ?患者側からの解除 基本、自由。

 ?医師側からの解除 基本、できない。応召義務がある。ただし、患者の妨害、他の患者への妨害は信頼関係を破壊することで、応召義務をなさなくとも許される正当理由となる。


以上

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第4、医療慣行は、医療水準を意味しない。医療慣行に従ったとしても過失あり。

 医療慣行は、医療水準を意味しません。

 小児科医療でいえば、医療慣行として「熱の時に抗生剤を投与する」ということが安易になされているとしても、「抗生剤は適正使用する」ということが現在の小児科学の医療水準であるため、抗生剤を安易に投与され副作用が出た場合、医療慣行を言い訳にすることは、投与した医院はできません。


1)医療水準とは、医療過誤事件において、過失における注意義務違反の基準となるものです。

 
 過失における注意義務違反=当該行為者が注意をすれば、結果の発生を予見でき、
              結果の発生を回避することができたのに、
              注意を尽くさなかったために、結果の発生を予見せず、
              結果の発生を回避するための措置を取らなかったこと。


2)判例によって形成・確立された医療水準の判断枠組み

 ?医師の注意義務の基準となるのは、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である。

  ⇒医学研究の水準ではない。新規の治療法の場合に要検討。


 ?医療水準を判断するにあたっては、当該医療機関の性格(病院か開業医か、大学病院か)やその所在する地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮する。

  ⇒具体的に検討を。


 ?医療水準の基準となる知見は、当該医療機関に期待することが相当と認められる知見。

  ⇒知見(情報)の普及と、医療従事者の研鑽。


 ?知見を有しながらも治療法実施の技術・設備等を有しない場合には、他の医療機関へ転医させる等の義務がある。

 ?平均的医師が現に行っている医療慣行に従ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたことにはならない。


3)医療水準論の課題

 ?医療水準の確定の困難性、証明の困難性

 ?医師の免責のために機能する可能性

 ?一般的な医療水準と個別具体的な検討の橋渡し

以上

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第5、適正タイミングでの転医・転送義務は重要。患者病状が許すことを前提に。

1)転送義務の概念、その法的根拠

 〇医療法1条の4第3項
3  医療提供施設において診療に従事する医師及び歯科医師は、医療提供施設相互間の機能の分担及び業務の連携に資するため、必要に応じ、医療を受ける者を他の医療提供施設に紹介し、その診療に必要な限度において医療を受ける者の診療又は調剤に関する情報を他の医療提供施設において診療又は調剤に従事する医師若しくは歯科医師又は薬剤師に提供し、及びその他必要な措置を講ずるよう努めなければならない。



 〇保険医療機関及び保険医療療養担当規則16条
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S32/S32F03601000015.html 

(転医及び対診)
第十六条  保険医は、患者の疾病又は負傷が自己の専門外にわたるものであるとき、又はその診療について疑義があるときは、他の保険医療機関へ転医させ、又は他の保険医の対診を求める等診療について適切な措置を講じなければならない。


2)転医義務の要件

 ?患者の疾患が自己の専門外が、自己の臨床経験ないし医療設備によって当該患者の疾病改善に困難であること

 ?患者の一般状態が転医のための搬送に耐えうること、すなわち、危険状態を脱していること、あるいは、既に手遅れとなっていないこと

 ?地理的環境的要因として、患者の病状との関連で、搬送可能な(転医可能な)地域内に適切な設備・専門医を配置した医療機関があること

 ?転医することによって、患者に重大な結果回避の見込みがあること、ないしその疾病改善の見込みがあること


3)転医義務の内容
 
 ?求諾義務:受け入れ先が受け入れてくれるかの承諾を得る

 ?転移先に対する説明義務

 ?適正搬送義務



以上
 

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第6、医師の説明義務は、患者の自己決定に繋がり最重要

1)医師の説明義務

 医師が患者に対し、

 病名、

 症状とその原因、

 治療行為の内容、

 治療行為に伴う危険、

 治療を行った場合の改善の見込み、

 当該治療を行わなかった場合の予後、

 代わりの治療行為、

 その場合の危険性、

 改善の見込み

 及び

 当該治療行為を選択した理由

 を説明すべき義務を言う(現代裁判法体系131ページ)


2)医師に説明義務が発生する法的根拠

ア契約上の注意義務として

 〇診療契約という準委任契約から、

 受任者の顛末報告義務(民法656条、645条)

 善管注意義務の付随義務(民法656条、644条)

 が生じる。


(準委任)
第六百五十六条  この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。

(受任者による報告)
第六百四十五条  受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。

(受任者の注意義務)
第六百四十四条  受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

 〇診療契約締結前の場合

  信義則上の義務

 〇医療法1条の4第2項

医療法1条の4
2項  医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。


イ不法行為上の注意義務として

〇不法行為法上の違法阻却要件としての説明義務

 医療行為は、患者の生命・健康に重大な影響を及ぼすので、具体的な医的侵襲行為毎に違法性阻却要件として患者の同意を得る必要があり、その同意を得る前提として説明義務を負っている。

〇注意義務の一内容としても説明義務を負う


3)医師に説明義務が発生する理論的根拠

 以下、密接不可分の両者から理論的根拠は説明される。

〇違法性阻却事由としての承諾の前提要件(医師側)

〇患者の自己決定権(患者側の知る権利)



4)説明義務の内容、時期、説明すべき「事実」の範囲

 〇説明義務の内容
  その場面に応じ、患者が自己の医師に基づき説明の内容について承諾し、また自己決定するのに必要な程度に事実を説明すべき

 〇説明の時期
  できるだけ、早く⇒考えるゆとり、判断(自己決定)までの合理的期間を患者に与える、

 〇説明すべき「事実」の範囲

 ?具体的患者説
  当該患者の置かれた状況を前提として、合理的な患者であれば重要視する情報で、かつ、当該患者が重要視する情報

 ?二重基準説
  具体的な患者が重要視し、かつ、そのことを合理的医師ならば認識できたであろう情報が説明されるべき

5)説明義務が発生する具体的場面

 ?病状あるいはこれに基づく検査の必要性等について説明する義務

 ?治療不可能な場面等に転院等を勧める説明義務

 ?診断・検査等を行うための承諾を得る前提としての説明義務

 ?病名についての説明義務
  アがんの告知 確定診断前・確定診断後

 ?治療方法に関わる説明義務
  ア治療の種類
  
  イ治療の危険性

  ウ治療による合併症

  エ治療による副作用

  オ治療の目的・必要性

  カ治療の結果

 ?身体の侵襲を伴う治療を行うための承諾を得る前提としての説明義務

 ?診療契約終了時における説明義務
  ア退院後等の日常生活上の注意事項

  イ緊急診療後一旦帰宅させる場合の説明

  ウ通院外来患者に対する説明

  エ診療契約終了時における医療経過・死因などの説明

 ?医療相談における説明義務

 ?チーム医療と説明義務


6)説明義務の限界
 ?医療行為の特性に伴う限界
  ア緊急医療

  イ確定診断がついていない場合及び経過観察中の場合

  ウ医療行為の侵襲が軽微な場合

  エ医療行為が不可欠な場合

  オ医療行為が医療水準に達していない場合

 ?疾病の特性による限界
  ア予見できない疾病の場合

  イ軽微な疾病の場合

  ウ危険性が極めてまれな場合

 ?患者の特性に伴う限界
  ア患者が医師の説明を受ける能力を書く場合

  イ患者への悪影響がある場合

  ウ患者が説明を受けることを拒否している場合

  エ患者がすでに知っている場合


7)説明の相手方
 ?原則 患者本人

 ?例外 本人以外の者に対する説明
  ア患者が判断能力を欠く場合
   未成年者
   精神障害者
   被成年後見人

  イ患者本人に対する説明が不相当である場合

  ウ患者本人の判断を求める時間的余裕がない場合(緊急の場合)

8)説明義務違反についての主張・立証責任

 原則として、患者側で、
 〇医師に説明義務が発生すること

  及び

 〇医師がその説明義務を尽くしていないこと

  更には、

 〇説明義務が尽くされれば当該結果が生じなかった高度の蓋然性(因果関係)があること

 について、主張立証責任を負う。


9)説明義務違反の効果

 ?説明義務違反と結果との間の因果関係が肯定される場合

 ?説明義務違反と結果との間の因果関係が否定される場合

 *意思決定の可変性
  説明を受けることで意思決定が変わることがどの程度あるのか

以上



*****************************************

第7、患者の自己決定権(憲法13条)を最大限に尊重すること

1)患者の自己決定権とは

 自己決定権とは、プライバシー領域に関する事項に対し、自ら決定することができる権利



2)自己決定権の根拠

〇憲法13条、個人の尊重、幸福追求に関する国民の権利

第十三条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。


〇医療法

第1条の2第1項 医療は、生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨とし、医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手と医療を受ける者との信頼関係に基づき、及び医療を受ける者の心身の状況に応じて行われるとともに、その内容は、単に治療のみならず、疾病の予防のための措置及びリハビリテーションを含む良質かつ適切なものでなければならない。

第1条の4第2項  医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。



3)生命に関する自己決定権と医の倫理

?個人の自己決定を最大限尊重する立場

 第三者の権利を侵害することにならない限り人は自己の生命にかんしても自由に意思決定する権利を有する

?生命の絶対不可侵性を強調する立場
 
 生命には至高の価値があり、その主体を含む誰によっても侵害することは許されない

?一定の条件の下で生命の短縮や喪失につながるような自己決定を容認する


*自殺関与罪(刑法202条)
(自殺関与及び同意殺人)
第二百二条  人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、六月以上七年以下の懲役又は禁錮に処する。



4)安楽死・尊厳死の分類・定義

?尊厳死

 人工呼吸や経管栄養などによって生命を維持されている回復不能な植物状態患者や末期患者に対して延命医療を行わないことによって人間としての尊厳のある自然な死を迎えさせること


?安楽死

 苦痛を除去・緩和して安らかな死を迎えさせること

 ア純粋型安楽死:苦痛除去・緩和のための治療を行い、それが死期に影響を与えないこと

 イ間接的安楽死:苦痛除去・緩和のための医療措置の副作用により生命の短縮を伴うこと

 ウ消極的安楽死(≒尊厳死、自然な死と言うことで安楽死と明確に区別する立場もあり):延命のための医療が患者に苦痛・不快感を与える場合に、すでに開始した延命医療を中止したり、そもそも延命医療を開始せずに差し控えることによって死期が早まること

 エ積極的安楽死:耐え難い苦痛の除去を目的として致死性の薬物の投与などによって患者の死期を積極的に早めること
  自発的安楽死/反自発的安楽死/非自発的安楽死

?積極的安楽死を肯定する法的根拠
 ア違法性阻却説 緊急避難説/自己決定権説/正当行為説
 イ責任阻却説  期待可能性説/違法性の錯誤

?積極的安楽死・自殺ほう助を肯定する場合の要件
 4つ
 1耐え難い苦痛、
  2不治の病、死期が近い、
  3苦痛の緩和で他に代替手段なし、
  4本人の意思


以上
 
**********************************

第8、医療過誤の論点

不幸にして、医療過誤訴訟に至った場合の論点。

 医療過誤訴訟で最も大事な点は、医師と患者の信頼関係構築1で述べた「証拠保全」であることを忘れないこと。


1)過失論

 当時の当該医師が、いったい何をどうすべきであったか


   ↓


 過失における注意義務違反=
              当該行為者が注意をすれば、結果の発生を予見でき、
              結果の発生を回避することができたのに、
              注意を尽くさなかったために、結果の発生を予見せず、
              結果の発生を回避するための措置を取らなかったこと。


2)因果関係論

 訴訟上の因果関係の立証は、

 一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、

 経験則に照らして全証拠を総合検討し、

 特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、

 その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、

 かつ、それで足りるものである。

 (東大ルンバール事件 最判昭和50.10.24)


3)損害論

 ?従来の損害論 → 交通賠償を基礎とした損害論
  交通事故:その人は、健康、       医療:その人は、病気
  交通事故:契約なし              医療:契約あり

 ?医療の不確実性、多様性、特殊性


以上

  


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